*****病気*****

とある人は隆瀬に話した。
「私は病気です…」
何の病気かと訪ねると、病名ははっきりしていないらしい。
彼女自身病院には通っては居ないそうだ。
ただ、繊細な神経の持ち主という事だけは解っている。

ある日、彼女の腕を見せて貰った。そこには幾つものリストカットの痕。
濃いものから薄い物まで。
長い年月を懸けて出来たものだった。

隆瀬は思わず、目を逸らしそうになったけど、逸らしはしなかった。
彼女自身から目を背ける事になりそうだったから。
彼女は繊細な神経の持ち主と上記に書いたが、それ故に純粋なのだ。
自分を裏切ろうとする相手がどうしても許す事が出来ない。
それは人間誰しも思う。

彼女は素直で自分にとても正直な人だ。
それ故に他人から傷つけられると、なかなか立ち直る事が出来ない。
直接的な原因は聞いてはいないが昔彼女は有る人にとても傷つけられたらしい。
深く傷ついた彼女はリストカットをした。
だけど自分の力ではそれが限界。自分が此処でひっそりと死んでしまっても、傷つけられた相手は何にも思わないだろう。

だがそれでは彼女自身が納得が行かない。
相手に「お前のせいで、私はこんなに傷つき苦しんだんだ。だから死んでやる。私を忘れる事が出来ない様に。一生忘れない様に」
そういう思いを伝えながら死にたかった。と彼女は笑いながら話した。

死ぬ為なら努力を惜しまなかった。いろいろな自殺に関する文献を読み漁った。
インパクトのある死に方、綺麗に死ねる方、苦しまずに死ねる方法等。
彼女は毎日そんな事を考えていた。もう彼女の脳は『自殺』の二文字しかなかった。

ある時古くからの友人に久しぶりに会う事になり街へと出掛けて言った。
友人へ会うと、彼女の死への願望が薄らいで行った。
暫し楽しい時間を送る。が、友人が次に行こうと言った場所が彼女をさらに深い闇へと落とした。

とある講習会と名載って会場へ入って行く彼女と友人。そこはねずみ講の講習会だった。
友人は「貴女だから教えるのよ!誰にも言っちゃだめよ?」と得意毛な表情で彼女を誘った。俯いて答える彼女はその契約書にサインをした。

実家に戻り家族に告げる。
彼女は両親に物凄い剣幕で怒られた。彼女は怒られる理由さえ解らなかった。
仕方なく友人には、クーリングオフで解約すると伝えると、友人は彼女を汚い言葉で何時間も罵った。

彼女はボロボロになっていた。
其の日の夜、彼女は自分の部屋でまたリストカットを行った。
何度も何度も。
彼女はもう痛み等感じていなかった。
何かに取り憑かれたかの様に、カッターの刃を手首に当てては横に引くだけ。

部屋は血まみれだった。

何度か気を失った。

だけど彼女に死ぬ事は許されなかった。



此処まで彼女は隆瀬に一気に話した。
隆瀬は黙って聞く事しか出来なかった。

彼女は今元気に生活している。
彼女を支えたものは仕事だった。
あの日の翌日も彼女は仕事に行っていた。

彼女曰く、「仕事は私と外界を繋ぐ大切なもの」だそうだ。
今の彼女は「仕事を取ったら、何も残らないよ」と言うと、少し悲しそうに笑った。

そんな彼女を隆瀬は複雑な思いで見つめてしまった。
その反面彼女がとても力強く見えた。

彼女は繊細だがとても芯の強い女性だ。

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