□月の砂漠 −1−□
一週間に一度はベジ−タはパオズ山に向かい、悟空と実践さながらのトレーニングを交わしている。そんな事は口実にしか過ぎない。
実際ベジータは自宅での、ブルマが作り上げた重力室でのトレーニングでも十分だった。
太陽が真上に昇る時間、大きな二人の気がぶつかり合い、大気は大きく震えていた。
それほど暑くは無い季節なのだが、フルパワーで戦う二人は炎天下の砂漠に居る感覚にさえ陥るほどの暑さであった。
チチの声で二人を包む金色のオーラが消えた。
「悟空さー!ベジータさ!ご飯だべー!!」
悟空の自宅前に設置されてある大きなテーブルの前には、サイヤ人二人が食べるには申し分の無い量の昼食が用意されていた。
砂埃と汗に塗れた体を手渡されたタオルで拭き、椅子に腰掛ける。
「まぁ、ゆっくりしてってけろ」
そう言い残し、悟天が泣き続ける部屋の中へと入っていった。
二人は無言のまま用意された昼食に手を付ける。
不意に向き合って座るベジータの手に悟空の手が重なった。
「ベジータ、今日の家に泊まっていかねぇーか?」
「…な、何を言ってるんだ!貴様、言っている事の意味を判ってるのか?!」
焦って重なり合った手を解く。正直悟空の言っている意味はベジータには理解する事が出来なかった。
それは、悟空の瞳に何か深い意味を含んだ光が差していたからだ。
「なんだよ。そんな顔しなくてもいいじゃねぇか。このまま修行を続けてたら、夜中になるだろ?そんな事だったら、オラん家に…って思っただけなんだけどなぁ」
「…まぁ、確かに…」
ベジータは返事に困ってしまった。悟空の言う事も一理有ったからだ。
キッと睨みを利かせると、
「カカロット、貴様変な事を考えてないだろうな?!」
「んな事何にも考えてねぇぞ?」
食事を続ける悟空にベジータは不安を多少は覚えたが、此処は悟空の言う事を信じる事にしよう。
「ふーっ、食った食ったぁ」
腹を摩りながら、横目でベジータの姿を盗み見する。
「さぁ、カカロット立て!続きをするぞ!!」
威勢よく立ち上がるベジータ。が、中々立ち上がろうとしない悟空にベジータは苛立たしさを覚える。
そんなベジータを尻目に悟空は小さく手招きをする。
「何だ?」
「良いから…」
誘われるままに悟空の横へと歩み寄るベジータの手首を勢い良く掴み、自分の元へと引き寄せる。その勢いでバランスを崩したベジータは悟空の胸元へ倒れこんだ。急にベジータは呼吸が出来なると思うとと、唇が完全に塞がれていた。
慌てて突き放そうとすればする程、更に強く抱きしめられる。
重ねられた唇、その咥内ではクチュッといやらしい音まで奏でられていた。
こんな所をチチに見つかってはマズイと懸命に悟空から逃れようとする。
ベジータの暴れ様にやっと観念したのか、それとも自分の気が済んだのか、しっかりと捕らえていた躰を解放した。
「貴様、こんな所で!!」
「大丈夫だって。今チチは悟天の面倒見てるから暫くは大丈夫だ」
「そういう事じゃないだろう!」
「そうカリカリするなって…な?…まぁ、そろそろ始めるとすっか!」
何事も無かったかの様に再び宙へとふわりと体を浮かせる悟空にベジータはすっかりとペースを乱されていた。しかし、其処は戦闘民族サイヤ人の王ベジータ。頭の中を切り替えると、悟空を追って空中へと舞い上がった。再び金色のオーラに身を包み、真剣に二人はぶつかりあった。
最近は何事もなく平和が続いていた。週に一度はこうして実践さながらの戦いをしなければ体が鈍ってしょうがない。
超化した悟空の気功破をまともに喰らったベジータは湖へと大きな音を立てて堕ちていった。
「ベジータ!!」
直ぐに悟空はベジータの落下した湖へと飛んでいく。水面でベジータの様子を伺うが、一向に上がって来る気配が無い。水中を覗き込んだ直後、大きな気の塊が悟空目掛けて放たれた。
「油断をするな、まだまだだっ、カカロット!!」
「…っく。痛ってぇ…!」
気の塊は瞬時の所で避けた悟空の左頬を掠めた。
水中から勝ち誇った表情で上がって来るベジータに悟空は背筋がゾクゾクとした。
「相変わらず、強ぇーな。ベジータ」
頬を手の甲で摩ると、微量の血が滲んでいた。
あれから何時間一戦を交えていたのだろう。
辺りは日も落ち、すっかり夕闇に辺りは包まれていた。
二人は岩の上に大きく体を投げ出して横になっていた。息もかなり上がっている。
チラッと横目で悟空を見ると、瞼を閉じて大きく呼吸をしていた。
こんなにまじかで悟空を見るのはベッド以外では初めての事だった。
横顔のシルエットは均整が取れていて綺麗だとベジータは思った。
首から胸に掛けての無駄の無い筋肉、長く伸びた手足。何時も抱かれているものだと思うと、妙な気分にさせられた。
ベジータの視線に気が付いたのか、悟空は起き上がり胡坐を組んでベジータの横へと座りなおした。
まだ黄金色に輝く髪を太い指で絡め取る。
それに気が付かない振りをするベジータは空を見上げたまま、無数に輝く星を見つめていた。
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